いつまで生きることが出来るのか。もし剛造がそのことを和夫に聞いていたのだとしたら、和夫は今すぐにその答えを剛造に教えてやりたかった。でも、それは和夫にも分からないことだった。それを和夫が正確に知るのは剛造の死の間際だろう。そして、もうその時にはそんなことは剛造には何の意味もなくなっているに違いない。結局、和夫が知っていることは剛造にはまるで役立たないことばかりだった。(「鬼ごっこ」より)
医療と人間との関係を描いた純文学、医療ミステリなどの中短篇を収録。電子オリジナル作品集。
*鬼ごっこ
*或る一日
*ハバナの夜
*その話、本当なのか
*足
*真夜中の方へ
●石黒達昌(いしぐろ・たつあき)
作家、医師。1961年北海道生まれ。東京大学医学部卒業。「最終上映」で第8回海燕新人文学賞を受賞してデビュー。純文学誌を中心に数多くの中短篇を発表する。「平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,」「真夜中の方へ」「目を閉じるまでの短かい間」で三度の芥川龍之介賞候補になる。また、「人喰い病」「希望ホヤ」で星雲賞日本短篇部門参考候補になるなど、SFファンからの支持も厚い。