「オートバイ乗りの心には、埋めようのない深い穴ポコが空いている。オートバイ乗りは、表向きはタフな振りをしつつ、その穴ポコを埋めようとあがいている。オートバイ乗りがオートバイを降りるのは、穴ポコを忘れたときだ。若いうちは穴ポコが見えるけれど、大人になるにしたがって、だんだん穴ポコのことを忘れてしまう」
オートバイの孤独でワイルドなフィーリングに憑かれたぼくは、旅に出ることによって、自然の景観のありがたさを感じ、本当の自分の心のドアを開くことができる。自分を旅するオートバイ乗りの物語。
●斎藤純(さいとう・じゅん)
小説家。1957年、盛岡市生まれ。FM岩手在職中の1988年『テニス、そして殺人者のタンゴ』でデビュー。1994年『ル・ジタン』で第47回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。2005年『銀輪の覇者』(早川ミステリ文庫)が「このミステリーがすごい!」のベスト5に選出される。岩手町立石神の丘美術館芸術監督、岩手県立図書館運営協議委員などをつとめている。