世は御側用人・田沼意次台頭のころ。下谷黒門町の岡っ引、越生の猪之吉、きわめつきの醜男で短足、ひと呼んでおこぜのぶたきち。お上のご威光をかさに、悪知恵と好色心だけが異常発達した、花のお江戸の嫌われ者だ。一方、上司の近藤左門、八丁堀きってのきれ者で美男、役得いっさいお断りのご清潔な文化人同心。
この取り合わせの妙と、続出する事件には、平賀源内、大田蜀山人、喜多川歌麿、塙保己一、ドクトル・ケンプ、朝鮮通信使など多彩な有名人が登場して奇想天外な展開をみせる。哀しくも滑稽な“収賄専門捕物控”九話を収録。
●胡桃沢耕史(くるみざわ・こうし)
1925年東京生まれ。府立六中(現新宿高校)、拓殖大学卒。『近代説話』同人。昭和30年、『壮士再び帰らず』(筆名・清水正二郎)で第7回オール讀物新人賞、58年、『天山を越えて』で第36回推理作家協会賞、同年『黒パン俘虜記』で第89回直木賞を受賞。『翔んでる警視正』シリーズ、『旅人よ』、『ぼくの小さな祖国』、『女探偵アガサ奔る』、『ぶりっこ探偵』、『夕闇のパレスチナ』、『闘神』など著書多数。