もと水戸藩士・潮地左源太の生業は首斬りだ。だが左源太が他の首打人と違うのは、罪人の“いまは”の言葉を聞いてやること。ただそのためにいらぬ災難を呼び込むことも再々だ。鈴鹿峠で、左源太は四人の武士に襲われた男を救ったものの傷は致命傷。幕府隠密の身分を明かした男は、水口藩主を巻き込んだ献上妻醜聞の真相を告げた。やがて左源太は水口藩から密通妻の首打ちを依頼されるが…。
●多岐川恭(たきがわ・きょう)
1920年福岡県生まれ。東大経済学部卒。戦後、横浜正金銀行をへて毎日新聞西部本社に勤務。1953年『みかん山』で作家デビュー。『濡れた心』で第4回江戸川乱歩賞を、翌年には短編集『落ちる』で第40回直木賞を受賞。以降、推理小説と共に時代小説も旺盛に執筆した。