あの天国的な響きのするウィーン少年合唱団は決して平均律のピアノで音程をとる訓練はしない。指導者は必ず、子供たちの耳で自分のドとミがハモる訓練をするのである。すると純正にハモる「ドミソ」の「ミ」は平均律の「ミ」よりも必ず低くなる。こういう訓練をするから、ウィーン少年合唱団の歌声は天使のようになる。
ひるがえって我が国のコーラス指導者の大半はピアノを叩いて音程の訓練をするから、最初からハモらないように教育されている。
なぜウィーンの子供たちはすばらしく、日本の子供はよくないのかと問われると、みんなは、伝統が違う、発声が違う、はては、食い物の差にしたりする。根本がわかってないのだ。平均律で狂わせている音階で教育して美しくなるはずがないではないか。
ピアノの音階は狂っている! などというと実に挑戦的な言葉だが、正確に言い直すとピアノの音階は狂わせてあるのだ。
ナニナニ、そんなことを言うと調律師が気を悪くして怒りだすんじゃないだろうかって……。ご心配無用。調律師はそんなことは先刻百も承知。彼らの商売はいかにうまくピアノの調律を狂わせるかを競い合うことによって成り立っているのだから。