親が憎い。親のせいで人生が思ったようにならなかった。違う親のもとに生まれていれば――。そうして、親を憎むのに疲れてしまった方へ。本書では、医師が実際に診察室でおこなっている治療の最初のステップを書籍で再現する試みをしています。治療においては、知識が助けになります。この本では、その知識を提供します。その知識は、親子問題で悩んでいる人はもちろん、治療者を目指す学生の方にも役立つ専門的、網羅的なものです。具体的には、親子問題の背後にある「親自身の問題」を、医学的・社会的視点から概観します。親の人物像を紐解く鍵はいくつもありますが、中でも大きなトピックとなるのは、「発達障害」です。この概念が広く知られて以来、子供の発達障害や、自分自身の発達障害に悩む方向けの本はずいぶん多く出てきました。しかし、「親が発達障害だった場合、親子関係に何が起こるか」についてはまだまだ光が当たっていません。この本での解説を通し、「うちのことだ」という発見をされる読者が一定数いるだろうと思われます。また、発達障害を抱える人のそばにいることで起こる「カサンドラ症候群」も重要ワードです。これらの知識は、ある意味、癒やしにもなりえます。親を責めるのでもなく、自分を責めるのでもなく、「こういう現象が起こっていた」と客観的に捉え直すことができるからです。それで親子問題がスパッと解決、とはいかずとも、「親像」が変わっていくことは大きな変化です。同時に、「自己像」も変わるでしょう。「自分が悪かった」「ダメな子だった」とひたすら思い込んでいる方にこそ、客観的知識を提供したいと思います。(本書「はじめに」より)