末期がんの母が人生最後の二週間を過ごしたのは、長崎の高台にある聖フランシスコ病院のホスピス病棟だ。悲しい別れの舞台だと思っていたホスピスで、母と私は思いがけず素晴らしい時間を過ごすことができた。特にシスター・ヒロ子の存在はとても大きい。小さな身体でスピーディーに移動し、笑顔とともに発せられる一風変わった言葉の数々に、私たちはどれほど救われたことだろう。もう母と会えなくなる寂しさや悲しみに心を奪われている私にシスターは言った。「死んでいく人は、残される人に向けてたくさんの贈り物をしているの。それに気づくことが逝く人に対してできる最大のことですよ」。シスターの言葉にハッとして顔を上げて気がついたこと。それは、母が残してくれた大きな贈り物の一つは、「シスターとの出会い」だったということを。かけがえのないシスター・ヒロ子との交流は、誰にでもできる慈愛に満ちた看取りのレッスンであり、笑いながら生きていくための優れたレッスンでもあったのだ。