「彼の者の名を『花矢』と言う」 季節は、如何にして齎されるのか? その問いに人の子らはこう答える。「四季の代行者」が神々より賜りし権能で春夏秋冬を大地に巡らせるからだと。 では朝と夜は? 同じく人は告げる。「巫の射手」が空に矢を放ち、その矢が朝と夜の天蓋を切り裂くのだと。 黎明二十年、島国『大和』の北端に位置する大地エニシに一人の少女がいた。 姓に神職を冠す巫覡の一族の末裔、代行者と同じく神の御業を担う者。大和に朝を齎す「暁の射手」その人だ。 少女花矢は今日も民に紛れ学舎に通う。 傍に美貌の青年を従える彼女が、大和にただ一人の『朝』だとは誰も知らない。 花矢と弓弦。少女神と青年従者の物語は、いま此処から始まる。