ポップミュージシャンだった大江千里の初めてのNY City暮らしは1991年から。天井が落ちたり、夜逃げをする羽目になったり。刺激的なこの4年間が何かを変える。東京とNYを行ったり来たりしながら、レコーディングを行い、ツアーに出かけた。デビュー当時は大阪と東京を行ったり来たり。自分の家を建てたときは都会と郊外を行ったり来たり。行ったり来たりが性に合っているのかもしれない。住む場所にはいつも「人生」が凝縮されている。不動産知識も随所にちりばめられた傑作エッセイ『僕の家』の中から「NY City Life」「夜逃げ」「ニュータウン」「『流れ星ハウス』の見た夢」「犬との暮らし」5編を収録。【読了時間 約43分】
「よし。決めましょう。僕は大家から聴かれても知らないことにします。引っ越し先も聞いていない。突然起こった訳です。だから何も残らない」
なに言ってるんだ、トム。
「やるんですよ。バンは僕が用意しますから。新しい家を決めたら夜中に決行です」
夜中に? だからどういうこと。え。それってもしかして。
「そうです。夜逃げです」――「夜逃げ」より
大江千里・おおえせんり■1960年9月6日大阪生まれ。1983年デビュー。2008年、ジャズピアニストを目指し相棒(ダックスフント♀)を連れてNYの音楽大学へ留学。2012年ジャズアルバム『boys mature slow』、2013年『Spooky Hotel』をリリース。東京ジャズフェスティバルには2年連続出演。現在は米国内で積極的なライブ活動を展開中。NYジャズ留学の前半を綴った「9th Note」シリーズ、後半を綴った「13th Note」シリーズ、「僕の家」シリーズを配信中。