夜を彷徨う孤独な男爵が仮面を外したとき、乙女は――
貧しくも心やさしい娘アンジェラのもとへある日、隣の伯爵家の跡継ぎダヴェントリ卿が訪ねてきた。
かつて英国一の美男子と謳われたこともある彼は、
戦場で醜い傷を負ってからというもの、仮面で顔を覆い隠していた。
そうやって隠遁生活を送る彼を、村人は“悪魔卿”と呼んで恐れた。
そのダヴェントリ卿が、私にいったいなんの用かしら?
アンジェラが恐る恐る尋ねると、彼は重い口を開いた。
「妻になってくれとは言わない。わたしの婚約者になってほしい」
彼の余命幾ばくもない祖父を喜ばせるための、偽りの婚約。
アンジェラは承諾した――心を閉ざした彼に恋してしまうとも知らず。