薔薇の棘のような彼の心に触れ、わたしの指に血がにじむ……。
父が急逝し、ルーシーは長年住み慣れた領主館を離れようとしていた。
館を維持する財力はなく、継母と弟妹の面倒も見なければならない。
領主館は、アメリカ人のいとこ、ソールが相続することになっている。
じつはルーシーは12年前に彼に会ったことがあったが、当時、子供ゆえの幼さで意地悪をしてしまい、それをずっと後悔してきた。
再会したソールは今や、いくつもの企業を切り回す大富豪となっていた。
ルーシーは美しい黒髪の彼に魅了され、大いに心を揺さぶられた。
しかし、二人のあいだのしこりは消えてはいなかった――
ソールは彼女に領主館から一秒も早く出ていけと言わんばかりに、軽蔑のまなざしと辛辣な言葉以外、微笑み一つ向けてはくれなくて……。