グレイの頼みでなければこの村に帰ってくることはなかっただろう。村を目の前にしてステファニィはひどく緊張した。十年たった今でもあの日のことが鮮明によみがえる。当時十八歳だった彼女は親の反対を押しきってこの村で結婚した。しかし、幸せなときは束の間、夫は暴力をふるいののしった――きみには女性的魅力がない、結婚しなければよかった、と。そしてあの日夫婦喧嘩のあと、彼はヨットに乗り海で死んだ。あれ以来夫の従兄のグレイだけが彼女の味方だった。彼はいつも紳士的で優しかった。しかし久しぶりに会ったグレイは今までとはどこか違う。彼女は妙にとまどいを感じるのだった。