「クラリシマ、まさか忘れたわけじゃないだろう!」その声に、クララははっと息をのみ、振り返った。ヴァレンティノ! 九年ぶりに幼なじみが戻ってきた。クララのことを“クラリシマ”と愛称で呼ぶ、ただひとりの人。そして、わたしにとっては“ティノ”。でも、もう昔の彼ではない。今はF1レーサーとして名をはせ、社交界をにぎわすプレイボーイ。その顔はテレビやタブロイド紙で、幾度も見せつけられている。父親のレストランの経営を立て直すため、当分町にいるそうだけれど、会ったとたんデートに誘う彼の真意が、クララにはわからなかった。いずれ町からいなくなる人と、浮ついた関係など結びたくはない。それにクララにはもう一つ、彼との関係に踏み切れない訳があった。■ミニシリーズ〈恋人たちのレストラン〉。今月は食前酒リモンチェッロにまつわる、心温まるロマンスをお贈りします。お見逃しなく。