香芝涼子は今日も、閑古鳥の鳴く店でひとり店番をしている。二年前、店主の祖父が病で倒れた際、美術館の学芸員という職と恋人を捨て、実家の『藤屋質店』に戻ってきた。将来に漠然とした不安を感じつつ、看板猫を撫でていると、外国製の陶製人形を男子大学生が持ち込んでくる。男性二人組という質屋には珍しい客に当惑しつつも、品物を預かって貸し付けしたところ、後にそれが盗品だったと分かり……。人間国宝作の萩焼の写し、いわくありげな櫛とかんざし、未発表の藤田嗣治の絵画など、不思議な縁で質屋に持ち込まれた品々を巡る謎、揺れ動く涼子の思いを優美に描く連作ミステリ。