1969年に「〈意識〉と〈自然〉――漱石試論」が第12回群像新人文学賞評論部門当選作となり文芸評論家としての執筆活動をスタートして以来、柄谷行人氏はつねに思考を進化させ、また深化させてきた。また、折々の関心にしたがい、様々な相手と刺戟的な対話をおこなってきた。
本書は講談社文芸文庫における決定版対話集の3巻目であり、『探究2』刊行直後の1989年からリーマンショックが世界経済に衝撃を与えた2008年までになされた10篇を収録する。
この時期の柄谷氏は1989年に「季刊思潮」を、また1991年にその後継誌の「批評空間」を創刊して世間の注目を集める一方、「探究3」の連載を中断して執筆を始めた『トランスクリティーク』を2001年に刊行、並行して国家と資本への対抗運動であるNAM(New Associationist Movement)を立ち上げるなど、まさに縦横無尽の活躍だった。
当時文壇と距離をとっているように見られがちだった柄谷氏だが、年長年少を問わず思いの外多くの作家や評論家と対談をしており、そのなかから今なお色褪せない対話を精選して収録する本書は21世紀以降の文学の行方への貴重な道標となるであろう。