少年事件が発生すると、巷間では少年法が取りざたされ、厳罰化すべしとの声も多々聞かれる。果たして、犯罪少年は保護されるべきか、刑罰を科されるべきか。本書は、明治後期から今日に至るわが国の百年間の少年法の歴史的展開を、法史学的データをもとに追跡し、その過程を精神科医・土居健郎が掘削した「甘え」の社会心理をプリズムとして考察する。アメリカのパレンス・パトリエ(国親)法の影響から導入された感化法が明治33年に制定され、それを基盤として少年法は、第一次大戦後の大正11年制定、第二次大戦後の昭和23年と平成12年の改正という三つの節目を経てきた。この流れをたどりつつ、少年審判所、起訴便宜主義、保護観察制度などをめぐる議論を丁寧に繙き、法の構造を解明。さらに、1960年代以降、アメリカ社会に吹き荒れた脱保護主義の嵐と加速化する家族崩壊がアメリカ法を一変させ、児童の保護から権利へと大きく振れる様を描くとともに、家族法学者ヘイフェンと土居との出会いを紹介し、「甘え」という概念の普遍性を視野において西欧社会と日本社会との差異を論じる。少年法・児童法の歴史と思想という視座から、近代日本国制の特徴を浮かび上がらせ、教育さらには変貌する家族の行方をも見すえた必読書。
【目次より】
「長崎純心レクチャーズ」について 片岡千鶴子
序言 稲垣良典
1 「子どもの楽園」の文化的基層
2 転換期アメリカにおける少年裁判所と日本
3 日本における少年処遇の模索
4 大正一一(一九二二)年少年法の構造
5 法制定をめぐる論争
6 少年法「限地施行」の二〇年
7 GHQ改革と昭和二三(一九四八)年少年法 パレンス・パトリエとの第二の出会い
8 法務省「少年法改正要綱」
9 平成―二(二〇〇〇)年少年法改正とその意味
10 アメリカ・パレンス・パトリエ少年司法の没落
11 「甘え」と「Belonging」 B・ヘイフェンの場合
むすび
注
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