【内容紹介・目次・著者略歴】
歴史的大転換期を迎えていた晩清民初、人々の人生の折節に深く関わって機能していた演劇は、圧倒的多数の無筆の民衆を啓蒙し、中国を近代化へと導く大きな役割を果たした。本書は当時の史料を基礎に、当時の視点に立って、中国近代伝統演劇史の実態を明らかにした第一級の歴史書。啓蒙慈善劇が無数の観客のみならず、被差別民であった役者自身の地位向上と自覚をも導いたことを指摘し、慈善劇の演劇史的意義を考察。近代的芸術性を追求した名女形梅蘭芳の登場から上海公演や新劇との影響関係を辿り、旧役柄制の打破と人物表現おける彼の改革と成功が、近代否定的評価を受けた私寓制度とブレーンの力にあったことを解明。同時に、当時男性役者を駆逐する破格の人気を得た二大女優、劉喜奎と鮮霊芝の成功への道と伝統演劇を近代化に導いた彼女らの功績を顕彰、往時の女性役者にまつわる不条理な末路にも触れる。さらには、登場して間もない新聞というメディアが劇界に及ぼした絶大な影響と変質を批判的に検討するとともに、慈善劇を初め演劇改良に力を注いだ田際雲と、北京女優劇の発展を担った楊韻譜といった?子劇役者や脚本家、啓蒙演劇家であり革命家王鐘声など、歴史の波濤の中に呑み込まれた無名の英雄たちを、著者の緻密で共感的な筆致で現代に蘇らせる。文字と無縁の民衆が芸能者と共に不断に築き上げてきた文化、これまで埋もれていた中国の基層文化を闡明し、非文字文化研究を中国学の主柱の学問領域に高めんとする記念碑的大著。
【目次より】
用語と史料について
第一章 非文字文化による民衆啓蒙と演劇改良
第二章 晩清北京の劇界に対する四大禁令
第三章 晩清における北京の劇場
第四章 晩清の啓蒙義務戯とその演劇史的意義
第五章 北京における娼妓義務戯と坤劇の出現
第六章 近代北京における商業坤劇の初公演
第七章 私寓制度と梅蘭芳の登場
第八章 晩清北京の〓子劇とその役者
第九章 主要役柄の変位と榔子劇花旦
第十章 晩清各商埠の坤劇を中心とした演劇状況
第十一章 警醒啓蒙演劇家王鐘声と北京の劇界
第十二章 民国元年の禁令解除と坤角の登場
第十三章 坤班独立の困難と破格の影響
第十四章 坤劇の問題点と充実への道
第十五章 梅蘭芳の改革と成功への道
第十六章
第十七章 楊韻譜と民初坤角二大花旦の登場
第十八章 梅蘭芳の時装戯と古装戯
第十九章 民国初期の北京における新劇活動
第二十章 劉喜奎以前の京津坤角新編戯
第二一章 志徳社と楊韻譜の新編戯
第二二章 民国初期の北京劇界と新聞界
第二三章 役者に対する差別と坤角の複雑な事情
第二四章 非文字文化の伝統演劇が輝かせた近代の曙光
参考文献一覧
※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。
吉川 良和
1943年生まれ。 中国音楽史・演劇史学者。元一橋大学社会学部教授。専門は中国音楽史、演劇史。埼玉大学文理学部人文科卒業、東京都立大学大学院人文科学研究科博士後期課程単位取得退学。
著書に、『北京における近代伝統演劇の曙光 非文字文化に魂を燃やした人々』『中国音楽と芸能』などがある。