【内容紹介・目次・著者略歴】
近世社会は、古くは絶対主義の時代と呼ばれ、近年においては「宗派化」「社会的規律化」の時代と把握されている。この時代の教会は、国家権力と手を携えて臣民(信徒)の内面と日常生活を徹底的に「宗派化」し、また「規律」への服従を教え込んだというのである。一方、都市・農村の「共同体原理」を重視する歴史家は、市民・農民は受動的な臣民ではなく、共同体の維持と繁栄のために「宗派化」と「規律化」を下から担っていたと説く。いずれにしても近年の西欧近世史は「国家」と「共同体」を軸に展開されている。しかし実際には、諸宗派の混在を克服できない地域が随所にあり、こうした状態のなかでは「社会的規律化」も至難の業であった。近世人にとって宗派の境界は絶対的なものではなく、異宗派の土地に移り、改宗を行う無数の人々が存在したのである。本書は16世紀から18世紀初頭までのスイスとその周辺地域に焦点を当て、改宗と亡命という現象に注目しながら「個人」の覚醒と自立化の過程を浮き彫りにし、図式的に捉えられてきた西欧近世史像に再考を迫る。
【目次より】
貨幣換算表
序論 近世史研究の動向と問題の所在 諸宗派の歴史的役割をめぐって
はじめに
一 「社会的規律化」と「宗派化」の理論 二 家父長制強化論と女性抑圧論 三 「宗派化」「規律化」論への批判 その達成度をめぐって 四 「宗派化」「規律化」論への批判 その担い手をめぐって 五 家父長制強化論・女性抑圧論への批判 六 「個人」のゆくえ
おわりに 本書の課題と方法
第一章 近世スイスの宗派情勢
はじめに
一 スイス盟約者団の内部構造 二 「宗派化」と「規律化」の諸相 三 日常現象としての改宗
おわりに
第二章 聖職者の改宗と亡命
はじめに
一 真の宗教と偽りの宗教 二 奇妙な人材の交換 三 改宗聖職者の事件簿 四 再改宗
おわりに
第三章 信徒の改宗と亡命
はじめに
一 新しい信仰と古い信仰 二 つくられた改宗者 三 諸邦の改宗者援助政策 四 したたかな個人 五 貧しい人々
おわりに
第四章 女性および未成年者の改宗と亡命
はじめに
一 生存競争 二 転落者と放浪者 三 結婚と家族の秩序 四 遺産相続 五 未成年者
おわりに
第五章 国家・共同体・個人
はじめに
一 門閥都市国家の政治と社会 ルツェルンの場合 二 村落共同体と改宗者 三 都市共同体と改宗者 四 国家による新しい「公益」政策 五 国家と共同体のあいだで 六 スイス農民戦争と平民世界の「脱宗派化」
おわりに
結論
あとがき
注
参考文献一覧(略記号付)
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踊 共二
1960年生まれ。歴史学者。武蔵大学人文学部教授。早稲田大学第一文学部卒業、同大学大学院文学研究科博士課程を満期退学。博士(文学)。専門は、スイス史、中近世ヨーロッパ史。
著書に、『改宗と亡命の社会史 近世スイスにおける国家・共同体・個人』『ヨーロッパ読本 スイス』(共編著)『図説スイスの歴史』『スイス史研究の新地平 都市・農村・国家』(共編著)『中近世ヨーロッパの宗教と政治 キリスト教世界の統一性と多元性』(共編著)などがある。