日本の東洋史学が生んだ20世紀の巨人、宮崎市定(1901-95年)。広範な領域にわたる魅力的な著作の数々から、全集未収録作品を含め、これまで文庫に収録されてこなかったものを中心に精選したアンソロジー。長年の愛読者はもちろん、宮崎史学初めの一歩にも。
「歴史は須(すべか)らく世界史でなければならぬ。事実、私の研究は常に世界史を予想して考察して居り、世界史の体系を離れて孤立して個々の事実を考えたことは一度もない」(『アジア史研究』第一、「はしがき」より)。出発点となった宋代史研究をはるかに超えて、中国史のあらゆる時代、さらに西アジア史や古代日本史にまで及ぶ優れた業績は、いずれも偉大な歴史家の理念に力強く裏打ちされている。
鋭く細やかな洞察、時間・空間ともに壮大な展望を予感させるスケールの大きさと独創性、生き生きとした人物描写、これらを可能にする文章力……。枚挙に暇がない魅力ゆえに、宮崎の作品は、専門家にとどまらず長きにわたって多くの読者を得てきた。専門とする時代・領域ともに異なりながらも、宮崎への思い入れが嵩じて評伝を著し話題になった西洋古代史研究者の井上文則氏もその一人である。その井上氏が、歴史家としての宮崎市定、とりわけその人となりがわかるような作品を厳選、解説では宮崎の人生のなかにそれらの作品を位置づける。
中国の歴史は中国周辺の民族に代表される素朴主義と、中国社会そのものである文明主義の入れ替わりの歴史であったと喝破し、素朴主義に共感を寄せる「素朴主義と文明主義再論」。本作品をはじめとする宮崎独自の雄大な歴史観、そして古代・中世・近世史、さらに文化史についての各論を通して、巨峰宮崎市定の威容に迫る決定版セレクション!
【本書の内容】
1 歴史の見方
世界史序説
素朴主義と文明主義再論
歴史と塩
『宋詩概説』吉川幸次郎著〔書評〕
2 歴史学各論
・古 代
中国上代の都市国家とその墓地――商邑は何処にあったか
条支と大秦と西海
・中 世
晋武帝の戸調式に就て
六朝時代江南の貴族
清 談
・近 世
五代宋初の通貨問題梗概
王安石の黄河治水策
雍正時代地方政治の実情――シュ批諭旨と鹿洲公案
・文化史
シナの鉄について
江戸時代におけるシナ趣味
3 全集未収録作品
大きな静けさ
はしがき〔『地獄の決闘』〕
中国漢代の都市
中国における易占の発達
付録 宮崎市定と青木木米(リチャード・ピアソン&一枝?・ピアソン)
解 説(井上文則)