幼い頃に父を亡くし、母の手一つで育てられた矢沢次枝は、恋人・勝田伸にプロポーズされたことを、母に言い出せなくて悩んでいた。依怙地な母は、娘の様子に恋人の存在を感じても、知らぬ振りをしている。伸はそんな状況のなかで、自分自身の勇気のなさに苛立ちつつ、次枝の態度に歯がゆさを覚える。次枝母娘と同じアパートに住む宮内咲子は、勤めのかたわら夜は学校へ通っているが、同級生の加治千太のやさしさを好意以上のものと感じながらも、伸に心ひかれるのだった。それぞれの思いを胸に秘めて、ひたむきに生きる恋人たちの姿と、人々の善意と哀歓を描く青春長編小説。