その男は、約束の12時を過ぎてから、ジュリアの前に悠然と現れた。
彼女の疎遠の父が遺言を託した相手――イタリア大富豪のランド。
父は愛人の存在を公言して母を苦しめ、ジュリアが赤ん坊のとき離婚した。
どれだけ貧しかろうと、父の遺産など受け取りたくはなかったけれど、
乳がんを患った母のために、なんとしても治療費を工面したい……。
最愛の母を助けたい一心で、ランドに連絡をとり、こうして会いに来たが、
彼の圧倒的な男らしさと人目を引く顔立ちに、彼女は思わず息をのんだ。
しかし、一方のランドは瞳に軽蔑の色を浮かべ、ジュリアに言い放った。
「きみは亡くなった父親のことさえ気にしない女だ」
彼は私を、見舞いにも来ずに遺産は受け取る悪女と思っているんだわ!