私は彼にとって存在すらしない女。
一夜をともにしても、子を授かっても。病院での夜勤のあと、ピクシーは兄の話を聞いて耳を疑った。
面倒を見るのがいやで、私の子を捨ててきたですって?
いいえ、兄のめあては子供の父親ギリシア富豪トールのお金だ。
1年半前、ピクシーはトールに純潔を捧げて身ごもったが、
妊娠を告げると、“君を知らない”と彼に追い払われたのだった。
急いで会いに行った彼は、今もハンサムで堂々としていて、
ピクシーは安っぽい自分の格好を恥ずかしく思った。
でも昔と同じ屈辱を味わってでも、トールには真実を伝えよう。
どうか母親失格だといって、彼があの子を奪いませんように……。