わたしだけが知らなかった――父と子爵の、都合のいい密約を。
母亡きあと、ネルはずっと父親とおばに疎まれてきた。寄宿学校から帰省するたびにいじめられ、慰めは、大好きな乗馬だけ。ある日、ガブリエル・ハンターという子爵が父を訪ねてきた。レディらしからぬ振る舞いで乗馬の腕を披露したネルは、案の定、おばにこっぴどく叱られた。子爵の目の前で。ネルは初めておばに楯突き、家を飛び出すと、寄宿学校に逃げ帰った。4年後。成人したネルは、父からの手紙で衝撃の事実を知らされる。なんと彼女は婚約しているというのだ――かの子爵、ハンター卿と。まだ17歳だったあの日、ハンサムだが暗い影を落とす子爵の瞳に覚えた胸のざわめきが、ふいにネルの全身によみがえった。
■『公爵の小さな妖精』で華やかなデビューを飾ったララ・テンプル。次にお届けするのは、内気な令嬢と心に傷を持つ年上子爵の、強引な婚約劇から始まるドラマティックなロマンス。『みにくいアヒルの子』や『あしながおじさん』を彷彿とさせる、名作の予感です。