切ないのは、あの夜に彼が求めたものが私じゃなく、亡き妻の面影だったこと……。
若きマーリンは仕事で湖水地方へ向かっていた。妻を悲劇的に亡くした実業家のブランドンに会い、彼の妻の生涯を描く映画に同意してもらうのだ。でも、彼は映画関係者の訪問を毛嫌いしているという。道中、嵐に見舞われて道に迷ったマーリンは、ホテルと勘違いしてブランドンの館を訪れてしまい、やむなく素性を告げずに泊まることに。その夜、妻の写真を暖炉にくべながら憂愁に包まれる彼を目撃し、昼間の傲慢さが消えたその姿に、マーリンは胸を衝かれた――彼を慰めたい一心で、求められるまま純潔を捧げてしまうほどに。だが翌朝、彼女が素性を明かすと、ブランドンは豹変した!
■傲慢か、繊細か――昼夜、別の顔を見せる大富豪に猛然と映画化を突っぱねられ、傷つくマーリン。後日、彼の申し出にさらに翻弄されることに。「今後もぼくと大人の関係を続けるんだ」英国女王も認めた稀代の大スター作家、C・モーティマーの貴重な初邦訳長篇!