ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』は、多くの音楽ファンの心を烈しく揺さぶる一大傑作である。また『ニーベルンゲンの歌』は古代ゲルマンの英雄伝説を素に、13世紀初頭に成立した一大叙事詩である。両者に共通する「ニーベルング(ゲン)」は地下に住む妖精の名前である。そしてこの侏儒がとてつもない財宝を所有していた。この財宝をめぐってさまざまな闘争が繰り広げられ、壮大な物語へと発展していくのである。この物語の主人公ジークフリートのルーツはどこにあるのか。古代ゲルマンの「竜退治」「財宝獲得」の英雄伝説や北欧の伝承『歌謡エッダ』『サガ』などの系譜を辿り、また、主人公の人間像と楽劇の魅力を徹底的に読み解き、ドイツ文化の特質とその精神の核心に鋭く迫る。
〔文庫書き下ろし〕
第1章 ニーベルンゲン伝説の生成
第2章 北欧への伝承
第3章 ドイツ中世英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』
第4章 新しいタイプの伝承
第5章 ドイツ・ロマン派による伝承
第6章 19世紀における戯曲作品
第7章 ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』4部作
第8章 20世紀のジークフリート伝説
結び ジークフリート伝説の系譜