受話器の向こうから聞こえてきたのは、12年間、
レイチェルがかたときも忘れたことのない声だった。
「トリスという名前に心あたりがありますか?」
トリス――豪華客船の旅で惹かれ合い、愛を誓ったのに、
消息が知れなくなった大富豪の御曹司。成就しなかった恋。
弄ばれたという現実を受けいれるのにどれほど時間がかかったか。
つきまとう過去の痛みは、いまなお胸の奥でくすぶっている……。
だがトリスは、レイチェルを捨てたくて捨てたわけではなかった。
あのあと事故で彼女の記憶のすべてを失っていたのだ。
*本書は、ハーレクイン・イマージュから既に配信されている作品のハーレクイン文庫版となります。 ご購入の際は十分ご注意ください。