現代の知の主流である専門知に、いま制度疲労の兆候が見られる。その理由の一つに学問分野の過度の専門化が挙げられる。研究者は広く隣接領域の教養を身につける暇などなくなり、視野が狭くならざるをえない。一方、現代の喫緊の大問題はいずれも、多くの分野にまたがる複合的な性格を持っている。このような背景があり、現在「集合知」という新たな知の形に注目が集まっている。ウェブ2.0によって、一般のネット・ユーザーが自由に情報を発信でき、またそれらを互いに検索できるようになった。そのため、これまでアカデミックな権威に守られ縁遠かった専門知が、フラットで身近な知に変質しつつある。ネット集合知は知というもののあり方に新しい光を当てている。今後、集合知はさまざまな科学研究や技術開発、さらに企業活動などにも活用できると期待されているのである。
*『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(2013年9月号)』に掲載された記事を電子書籍化したものです。