現代のビジネス・リーダーには成長や利益の創出などの経済価値のみならず、社会価値の実現も求められている。両筆者は1995年に『知識創造企業』を上梓し、知識が継続的なイノベーションを促し、持続可能な競争優位をもたらすことを指摘した。ここで形式知と暗黙知という2つの知識が論じられたが、いまのビジネス・リーダーは、第三の知識である「実践知」を身につけなければならないという。実践知の起源は、アリストテレスが分類した3つの知識の一つ、フロネシスにあり、「賢慮」とも訳される。実践知は経験から得られる暗黙知で、価値観や道徳を手がかりに、冷静な判断を促し、状況を踏まえた行動ができるようになる。組織でこのような知識を育成できれば、リーダーは知識の創造のみならず、見識ある判断が可能になる。筆者は、日本企業を中心に調査を実施し、こうした賢慮のリーダーが持つ6つの能力について、ホンダの創業者、本田宗一郎やファーストリテイリング会長兼社長の柳井正などの事例を交えて論じている。
*『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(2111年09月号)』に掲載された記事を電子書籍化したものです。