いまやイノベーションは時代の合い言葉であり、
その必要性が多くの企業で語られている。
しかし、その一方でイノベーションという概念に対する
そもそもの誤解が蔓延している。
イノベーションは技術進歩ではない。
次々と市場化される新しい製品やサービスや技術。
こうした現象のほとんどは「進歩」であって、
「イノベーション」ではない。
クレイトン M. クリステンセンが提唱した
「破壊的イノベーション」という概念の最大の功績は、
イノベーションの「古典的定義」に立ち戻りつつも、
経営が置かれている今日的な文脈に注目して
イノベーションの本質を再発見したことにある。
「新しい何か」という意味では共通しているものの、
イノベーションと技術進歩は一面では正反対のベクトルであり、
トレードオフの関係にあるとすらいえる。
筆者である一橋大学大学院教授の楠木建氏は、
イノベーションと技術進歩の違いを理解したうえで、
目の前にある日々の「技術進歩の競争」を
安直に追いかけないことが重要だと指摘する。
腰を据えて本来の意味でのイノベーションを追求するのであれば、
技術進歩に逃げてはいけない。
*『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(2013年6月号)』に
掲載された論文を電子書籍化したものです。