ストラッチェン公爵ブラントは洒落者として知られ、事業にも成功し、満ち足りた日々を送っていた。ただ一つの不安は、ある秘密をあばかれること。それは兄弟にも打ち明けられない致命的な欠陥だった。この秘密を持つかぎり、愛する女性を見つけたり、結婚したりすることはないだろう。散歩に出かけたその日も、いつもと変わらぬ朝だった。林に美女が倒れていたことを除いては。彼女はブラントの顔を見ると、さもしおらしげな様子で囁いた。「わたし……自分の名前がわからないわ」と。■幼くして両親を失い、自らの力で富と名声を手に入れたクレアモント三兄弟。たくましく誠実な彼らを描く三部作の最後を飾るのは、長男のブラントです。彼の人生は、突然現れたジェニーに翻弄され……。