とぼけた風格と智略で剣難女難をきりぬける、江戸浪人の又四郎こと、18万石・松平家の若君・源三郎は、三男坊の気安さから、家老・乙部茂右衛門の暗黙の諒解のもとに、養子縁組のととのった内藤家のお家騒動にみずから飛び込んで、剣風の下に奸臣輩との智恵くらべをして、君臣の道を説き、飛燕のごとく神出鬼没の大活躍をする。大衆文芸の独壇場ともいうべきお家騒動と道中記を綯い交ぜて、「鬼姫しぐれ」「美女峠」「又四郎笠」の3部に分けての「又四郎行状記」は、洛陽の紙価を高からしめたばかりでなく、その後の山手文学の基盤となって大根をはった時代巨篇である。<上下巻>