股旅物からラブ・ファンタジーまで、ギャンブル小説の世界で様々な実験を行った阿佐田哲也の意欲作3篇を収録。
お馴染み「清水次郎長一家」の活躍を、独自の視点で描き出した異色の股旅物兼ギャンブル小説『次郎長放浪記』は、通説とは一線を画し、次郎長と子分たちが純粋な上下関係でなく、“義理や人情”に支配されがちな股旅物のパロディであると同時に、原題『清水港のギャンブラー』に相応しく様々な博打を紹介する作品である。
一方、“フリーランサー”として生きる勝負師たちを、独自の筆致で描いた『ばいにんぶるーす』では、競輪に惚れ込んで生きる道を変えた元バンドマン・ロッカ、非合法の世界で天下を取りたいと願う非情なノミ屋・和合、元省庁役人・立花、出所間もない大物老ギャンブラー鉄五郎等の壮絶な人生模様が描かれる。
最後に「ばくちと名の付くものなら、サイコロ、花札なんでも来い」のチンポの修が、ひょんなことから「ばくち打ちのところへお嫁に行くのが夢」という阿呆みたいにいい女、美ィを抱え込む破目になった『ばくち打ちの子守唄』は、阿佐田が創造したばくち打ちにとっての“聖女”との甘酸っぱさに満ちたラブ・ファンタジー。
解説は、作家・北上次郎氏。付録として、「週刊文春」1987年4月23日号に掲載された阿佐田哲也へのインタビュー「バクチ打ちの経済感覚」などを収録。