『伽羅の香』は香道、『松風の家』は茶道と、芸道の復興に一身を捧げた女性やその一族を描く。付録は香道の楽しみ方を特集する。
室町時代に確立された香道は、香りを発する香木を加熱して、その香りを楽しむ雅な芸道だ。香道では香りを“嗅ぐ”ではなく“聞く”と表現する。江戸時代まで上流階級の嗜みとされていた香道だが、明治維新後は衰退の一途を辿る。香木の中で最上級品とされているのが伽羅で、『伽羅の香(かおり)』は次々と身内を亡くすという不幸に見舞われながらも、私財を投じて香道の復興に尽力した女性の生涯が描かれ、香道の奥深い世界を見せていく。
『松風(まつかぜ)の家』は安土桃山時代、千利休によって大成された茶道の世界が舞台である。茶道も香道同様、明治維新後に衰退していったが、同作品では逆境隆盛を取り戻すために苦難を乗り越え、懸命に生きた宗家一族の歩みが綴られ、第51回文藝春秋読者賞を受賞した。タイトルにある松風は、茶を点てるために窯で沸かした湯が奏でるシュンシュンという音を指し、松林に渡る風に見たてられたことに由来する。
付録では、実際に香を聞く体験ができる京都の老舗香木店に、香りの魅力や楽しみ方などを尋ねる。阿川弘之の『松風の家』書評も掲載。
※この作品にはカラー写真が含まれます。