“春”に象られた作品『春のいそぎ』『暗い春』など5篇を収録。立原文学の醍醐味とも言える男女の“愛の業”が堪能できる1巻。
『春のいそぎ』は、6歳で父の自裁という滅亡を見てしまい、亡骸が安置されていた部屋に立てられていた金屏風が忘れられず金箔師となった、主人公のデガダンスな生活と性愛を描いた作品。『暗い春』は大学のマルクス主義研究会で出会った男女の屈折した愛と、互いの境遇の違いから生じたすれ違いと、悲劇的な別れから、敗戦直後の学生の暗い青春を描いている。『去年の梅』は、別の女を作った夫に満たされない日々を送る人妻が、自ら開くサロンで出会ったロシア文学者との間で静かに進行していく愛の姿を、サロン客達の愛憎劇と対比させながら描いた作品。ほかに『春の病葉』『春の修羅』を収録。
付録として長女・立原幹氏が父の思い出を綴る「東ケ谷山房 残像 十六」など関連エッセイ3作収録。特別付録として『春の病葉』の生原稿と、立原自身が刊行に尽力した文芸誌「犀」の「創刊の辞」「終刊の辞」を収録。
※この作品にはカラー写真が含まれます。