男と女の噂の真相を、小説に仕立てた作品集
その街ではいくつもの噂話がささやかれている。
結婚から五年が経ち、すっかり冷えきった仲になった夫婦の噂(「好色」)。
酒と博打と女が原因で街から夜逃げした若い男の噂(「カップル」)。
不幸な事件で命をおとした夫と、未亡人となった女の噂(「アーガイルのセーターはお持ちですか?」)。
街のデパートに勤務する男と、街から上京して活躍している女優との噂(「輝く夜」)。
ある交通事故をきっかけに男が悔やむことになる冬場だけあらわれる娼婦の噂(「あなたの手袋を拾いました」)。
アーケード街で似顔絵を描いて街に住み着いた男の噂(「いまいくら持ってる?」)。
かつて街じゅうの男が群がったホステスとある男の噂(「グレープバイン」)。
そしてその街にはひとりの「小説家」が暮らしていた――。
噂はいつも事実よりひと回り大きい。ただ「小説家」にとってこれほど興味をひかれるものもない。噂の収集に余念のない語り手の「私」はその真相を探りつつ、実際に耳にした噂の数々を可笑しみと皮肉にみちた小説へと仕立てあげてゆく。
文壇屈指の小説巧者・佐藤正午が、その街に暮らす「小説家」の視点を借りて描いた、著者真骨頂とも言える作品集。全七篇を所収。