歌舞伎役者と見まごうほどの美男ながら、千葉周作から認められる剣客として町で噂の酒匂於兎弥──。しかも、葵の御紋入りの駕籠が迎えに来る奥医師として、江戸城大奥にも登城していた。竜宮城さながらの美女たちを診療し、誰もが羨むような日々を送っていたのだ。とある日、一人の中臈が於兎弥へ相談を持ちかける。高価な装飾品を商う多くの贅沢屋が出入りを願い出てくるという。彼らを受け入れれば金目の物が大量に紛失する。大奥はそれを恐れていたのである。昵懇となった北町奉行・遠山左衛門尉と贅沢屋に探りを入れる於兎弥。だがその舞台は、予想だにしない場所へ……。北辰一刀流の名手にして幕府の政道を守る御殿医が、今日も名刀「鵯丸」を手に乱舞する!