ここは、深川辺りの荒くれがずらり揃う、居酒屋「酔狂」──。さまざまな悪たちがいたが、その中で異彩を放つ者がいた。黒の羽二重を纏い、色白の品のいい顔立ちの侍で、名を堀田左京亮正衡という。左京亮は、若年寄を務める譜代大名で幕閣の中枢にいたが、仕事を終えると、夜な夜なこの店の暖簾をくぐっていたのだった。そのうえ彼の“友”は、将軍職を譲った大御所こと、徳川家斉だというから恐れ入る。その家斉がある日、胡蝶と名乗る一人の美女と親しくなった。だが女は、家斉を大御所と知って近づいて来たフシがある。しかもその正体を探るうち、日本の未来が転覆しかねない、大藩と商人の恐るべき企てが明らかに。さて、剣豪左京亮はこの大敵に、どう立ち向かうのか──!?