江戸深川の居酒屋「酔狂」──。ここには、夜な夜な馴染みの町人衆が集まり、賑わっている。が、風変わりな風来坊の侍もいた。いつも気軽に立ち寄るので気付かれもしないが、彼は幕府の中枢若年寄を務める堀田左京亮正衡、その人であった。しかも大御所徳川家斉の信頼も厚く、最近は家斉自ら左京亮を訪ねてこの店に来る始末である。家斉は十四男斉文の養子先に悩んでいた。その候補に突然、薩摩藩の名が挙がる。どうやら斉文が島津家の清姫に懸想したというのだ。だが、幕府を敵対視する薩摩はいよいよ反発、叛逆の意思を固め出した。南国の大藩との争いは避けたい幕府。将軍家のため、剣豪を自負する左京亮はついに、手強い示現流の剣士たちの前に立ちふさがる!