親をたたき切るために剣術を習いたい――。ある春の日、龍之介の許に武七という大工の棟梁の息子が弟子入りを願ってきた。武七の父の孫六は母親や妹に横暴なひどい親で、武七はそんな孫六を殺したいほど憎んでいるという。志の低さに呆れ、武七を追い返した龍之介だが、数日後、その孫六が三十間堀のほとりで殺されてしまった。元上役の北町奉行所同心・坂本伊三郎に依頼され、事件を追うことになった龍之介。だが、探りを入れていた人物はすでに殺され、武七も失踪してしまう。下手人は武七なのか?綾取りのように絡まる謎を探る龍之介だが、その背後にはもうひとつの凶悪な事件が隠されていた…。欲と情に翻弄される人間模様の哀歓を描く珠玉長編。