薬研堀の医師“藪髭”こと五十嵐祥庵の元に、ある日担ぎ込まれた一人の若い女。祥庵は、大川で溺れていたという女の体を診て驚いた。体中が、まるで嬲られたような痣で覆われていたのだ。事情を尋ねる祥庵だが、女は首を振って、家に帰らせて欲しいと訴えるばかり。この女には、何か隠されたいわれがある――。祥庵は、閉ざされた女の心を開くとともに、真相を探ろうと心に決める。女は作事方小頭補佐役・井村家の妻・佳代。だが佳代は二人目の妻で、井村家には不審な死を遂げた最初の妻がいた。南町同心・鎌谷厳重郎の助けで真相に迫る祥庵。だがその矢先、祥庵を凶刃が…。心の傷を、情けで癒し、剣で繕う官能時代小説。待望の書下ろし。