はやりの料理屋『志乃井』に、用心棒として居候する葵鯉之介。正体不明の素浪人だが、実はこの男、水戸徳川家の若さまで、しかも十一代将軍・家斉の実子。お世継ぎ騒動を逃れ、江戸市井に家出したものの、見るもの聞くもの、お城暮らしではわからぬ新鮮なものばかり。すっかり町家に慣れ親しんだ鯉之介であったが、とうとう実兄である新藩主・徳川斉昭に、居所を知られてしまう……。万事休す、またも籠の中の鳥に逆戻りか、と覚悟した鯉之介に下されたのは、意外にも実父の将軍・家斉による密命であった。水戸藩へ調査に行ったきり消息を絶った友・琢馬のため、鯉之介はみずからも、陰謀渦巻く死地へと旅立つのだが……。