罪ある者に必ず報いを受けさせる──それのみを願い、日々探索を続ける定廻り同心・浅羽啓次郎にとって、それは決して背を向けることができない事件であった。ある夏の帰り道、臨時廻り・横瀬儀右衛門が男に匕首を向けられていた。男を取り押さえるも、こいつは兄貴の仇だ、という叫びに、ただの狼藉者ではない、と啓次郎の心の釣竿がしなる。「あとで、俺を訪ねて来い。話を聞いてやる」──男にそっと耳打ちした啓次郎。数日経って現れた男の口から、三年前に起きた塗物問屋の後添い殺しに関する真実の一片を聞き出す。だが、これが奉行所や大店の大物をも書き込む事件の発端に……。闇の真相の果ては、有罪か、冤罪か。旗本出身の若さま同心が、正義の剣で悪を獄へと導く!