古都鎌倉に美しく燃え上がる宿命的な愛……そして、愛欲の日々の終焉を鮮やかに映し出す『残りの雪』ほかを収録。
『残りの雪』理由も分からず失踪した夫との別れに苦しみ、無為不安の日をおくる里子は、骨董の目利き坂西と出会う。鎌倉、京都、箱根、越後……人目を忍んで逢瀬を重ねる里子と坂西。四季の移ろいと、愛の日々の中で“いびつな染付白磁”といわれた里子は“女”として目覚めていく。やがて、里子の友人で坂西の元恋人だった綾江の嫉妬による密告で、二人の仲は坂西の妻・和枝の知るところとなる。宿命の愛と知りながら、里子は坂西と別れる決心をするのだったが……。男女の宿命的な愛を鮮烈に映した“大人の小説”として、日経新聞に連載され話題を呼んだ長編小説で、鎌倉や京都などの古都を舞台に、和服や自然を通して日本の四季が美しく描写されており、作品の魅力に彩りを添えている。また家族を失い無為の生活を送る元高校教員の中年男が、教え子との束の間の愛と別れを描いた『山居記』、『夏のことぶれ』を収録。
付録として長女・立原幹氏が父の思い出を綴る「東ケ谷山房 残像 四」など関連エッセイ3作収録。「写真で辿る立原作品の世界」(3)では『残りの雪』の舞台となった鎌倉・化粧坂、源氏山公園付近と「花の寺」海蔵寺を紹介。また、立原の孫・立原継望氏撮影の「鎌倉 桜巡り」も立原が愛してやまなかった街・鎌倉の美しい春の風景を写し出している。
※この作品にはカラー写真が含まれます。