歴史に秘められた事実を掘り起こした傑作長篇。明治二年三月二十五日の夜明け。宮古湾に碇泊している新政府軍の艦隊を旧幕府軍の軍艦「回天」が襲った――。箱館に立てこもった榎本武揚、土方歳三らは、次第に追い詰められていく状況を打開しようと、新鋭艦・開陽丸なきあと二番手の軍艦だった「回天」を使い、大胆な奇襲に賭けたのだった。奇襲には成功したが、外輪船で小回りが利かない「回天」は、新政府艦隊に包囲されて集中砲撃を浴びる――。一切作者の主観的視点は入れ込まず、事実のみをたどり、「回天」の運命を追いながら、初めて海上から箱館戦争が描かれた。後に書かれる『天狗争乱』につながる、隠れた名作。薩摩藩領宝島において、外国の捕鯨船員と島の警備の日本人との間の、小規模ながら戦闘がおこなわれた様子を描く「牛」を併録。解説・森 史朗