「ええ声」を持つ「なにか」はいかにして「悪声」となったのか――。ほとばしるイメージ、疾走する物語。著者入魂の長編小説。「なにか」は、ある重みをもって、廃寺のコケの上にそっと置かれた――。京都のはずれの廃寺に捨てられたみどりごは、コケに守られながら生をつなぎ、やがて犬のブリーディングと桜の剪定を生業とする花崎さんに引き取られる。「なにか」の声は、居合わせた誰もがはっと振り返るような特別なものだった。長じて歌うことを覚えた「なにか」は、アムステルダムからやってきたサックス・プレイヤーの「タマ」と「あお」の父娘といっしょに、生駒の方舟教会でライブを行う。奔放な想像力が魅力の、現代を代表する物語作家いしいしんじが、筋立ても分量も、あらかじめ何も決めずに想像の赴くままに書き進めた、少年の一代記。第4回河合隼雄物語賞受賞作。解説・養老孟司※この電子書籍は2015年6月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。