あの真っ暗闇の奥から、何かが私を凝っと覗いている!ホラーミステリーの旗手による新シリーズ、ここに開幕。戦後まもない混乱期。主人公の物理波矢多(もとろい・はやた)は満洲の建国大学から日本に帰国し、足の向くままに北九州の炭鉱で炭坑夫となって働き始める。波矢多は同じ炭鉱で働く美青年・合里光範(あいざと・みつる)と意気投するが、彼もまた朝鮮人の友を過酷な労働に従事させた過去に罪悪感を負っていた。やがて同室の合里が落盤事故で坑道に取り残されたのを皮切りに、炭坑夫が次々と自室で注連縄で首を括るという、不気味な連続怪死事件に遭遇する。現場からはいつも、黒い狐の面をかぶった人影が立ち去るのが目撃され……。敗戦に志を折られた波矢多は、相次ぐ変死体と“狐面の女”の謎を解けるのか。細密な炭坑の描写の中から、じわじわと迫ってくる恐怖と連続する密室殺人の謎。本格ミステリとホラーの魅力を併せ持った、著者の本領発揮の傑作長篇。解説・辻真先