1.「茶箪笥」体験者のケイコさんは、亡くなった母親の遺品整理にかつての実家に訪れた。久方ぶりの古い二階家は、ひっそり閑として急激に朽ち始めている。急ぎ片づけて日帰りで帰るつもりが、遅々として作業は進まず止む無く一泊する羽目になってしまう。深夜、ふと目を覚ますと、隣に寝ていたはずの夫がいない。二階からは何かガリガリと引っ掻くような物音がする。起き出して誘われるようにやってきた階段下は、かつて死後半月誰にも見つからずに母が倒れていた場所だったのだが……。2.「朧夜」谷川岳などで著名な群馬県M市在住の美容師Sさんの体験談。11月半ば、彼がまだ高校生のだった頃のある夕方、空手部で汗を流した後、道場を出てから道着をロッカーに置きっぱなしにしてきてしまったことに気付いたSさんは、一人道場に引き返すこととなった。道場は学校敷地内、グラウンドの端にある特設のプレハブだった。朧月夜の人気のないグラウンドを通り、道着を確保し、いざ道場を出ようとした時、風もないのに重い鉄製の出入り口の扉が、ひとりでに閉まり、あろうことか施錠されてしまう。道場に閉じ込められたSさんが外の様子を伺うために、高い窓越しに見たものとは。3.「一緒にいたよ」子供の頃には大人には見えない何かが見えることがある。当時5歳の息子を持つ岩下さんの体験。ある日、仕事終わりに急いで幼稚園に息子を迎えに行くと、「お母さんが来たよ」という先生の呼びかけに「はーい」と奥のホールから元気な返事を返してきた息子の声。しかし、その直後、ホールから顔を覗かせたのはおよそ息子とは似ても似つかぬ、青白い顔をした男の子だった……。4.「もう一度」松下さんは都内で事務職をしているOLだ。自宅と職場の往復のみの毎日に辟易していた彼女はひょんな事から成人者向けのバレエ教室の広告を目にし、早速入会の手続きをした。その初めてのレッスンの日。買い替えたばかりの中古車のカーナビに住所を入力し急ぎ教室に向かうも、ナビに従って着いたのは、見知らぬ坂の上の一軒家。何度入力してもやはり先日訪れた教室ではなく坂の上の家に案内されてしまう。おかしいとは思いながらも、三度目に件の家に到着してしまった時、家から幼い二人の子供とその母親が出てきて車を覗き込んできたのだが。