ACE=逆境的小児期体験、理解に向けた1冊最新の研究によれば、子どものころに繰り返し予測不能なストレス、喪失、困難に直面すると、大人になってからの健康状態が影響を受けるという。具体的には、自己免疫疾患、線維筋痛症、うつ病などの重篤な病気の一因になりうる。それだけでなく、他人との関わり、恋愛、子育てにおけるパターンも決まってしまうようだ。著者のナカザワ氏は、自身も8歳の時に父親と死別。子育てとジャーナリストとしての仕事を両立しながら、10年以上ものあいだ、何度か死に至るような自己免疫疾患と戦ってきた。40代では、ギランバレー症候群を2度経験。慢性的な病気に悩む女性の力になろうと、サイエンスライターとして、神経科学と免疫システム、人間の心の最も深い部分の働きの関係について書いてきた。そして2012年、ACE(Adverse Childhood Experiences:逆境的小児期体験)という画期的な公衆衛生調査研究に出あう。ACE研究では、さまざまな子ども時代の逆境と、成人後の身体疾患および精神障害の発症には、明らかに科学的な因果関係があることが証明されている。逆境には、暴言や侮辱、精神的または物理的なネグレクト(育児放棄)、身体的または性的虐待、親のうつ病、精神疾患、アルコールや他の物質への依存などが含まれる。当初は10項目が挙げられていたが、その後の研究によって、他の小児期のトラウマ(親との死別、きょうだいの虐待など)も長期間にわたる影響を及ぼすことが明らかになった。そうしたナカザワ氏の研究の集大成ともいえるのが本書である。小児期の経験が大人になってどのように影響するのかが、アメリカの複数の家庭の例を挙げながら解説されていく。日本でも逆境的体験を余儀なくされる子どもは多いが、アメリカでは深刻で痛ましい例が多く、研究も進んでいる。今後の日本でのACE研究と対策の道しるべになる1冊と言えるだろう。