いつの時代であっても、強いリーダーのいる国は栄えるものだ。特に混迷の時代、激動の時代となってくるとなおさらその感は強い。 大人物になりたいと切望した20代の松本幸夫氏は、リーダーとしての吉田茂、佐藤栄作田中角栄といった総理の「人物研究」をしていた。今の時代、必ずしも「総理大臣」が最高のリーダー、尊敬すべき人物例とはいいきれないのかもしれない。しかし、少々時代をさかのぼれば、歴代総理というのは、やはり日本の国を動かしていくだけの強力なリーダーシップを発揮していたものだ。 すると、歴代総理をリーダーとすると、さらにそのリーダーを指導している人物がいるのだということを耳にするようになった。それが、本書で取り上げる「安岡正篤」だ。「良き師」を求めていた松本氏は、安岡の著書を手にした。自分の求めていたものにようやく出会えて喜び、むさぼるように安岡の著書を読破していった。 安岡は、一高(東京第一高等学校)の卒業時に『王陽明の研究』、東京帝国大学在学中に『支那思想及び人物講話』を著しており、陽明学者として知られていた。安岡は25歳の時に、親子ほど年が離れていた、当時の海軍大将・八代六郎と会見したことがある。話は陽明学の解釈にまで及び、二人の意見が衝突したことがある。1週間後、自分の非を認めた八代将軍が、安岡に弟子入りしたという。それだけ陽明学者として、あるいは人格的に安岡が優れていたということの証左となろう。また、安岡が30歳の時(昭和2年)の弟子の一人に吉田茂がいたことでも、安岡の人間的なスケールの「大きさ」がうかがわれる。 戦前・戦後を通じて、安岡は総理の陰のアドバイザー役であった。佐藤栄作、福田赴夫、大平正芳、中曽根康弘……。また、財界の心の拠りどころでもあった。稲山嘉寛、平岩外四、江戸英雄……。各界の「トップ」と呼ばれている人の大半が、安岡の教えを受けたといっても過言ではない。繰り返すが、リーダーのさらに上に立つことのできた人物が、安岡なのだ。 そんな安岡の教えのエッセンスが、本書に凝縮されている。歴代の日本の要人が学び、国家の方針を決定づけてきた哲学が、述べられている。 特に、人生観についての安岡の教えを取り上げた。また、陽明学者として名高かった安岡が、どのように王陽明の教えを実践していったのかも学んでいく。さらに、安岡の説いた「帝王学」に関してもふれてある。そして、安岡自身の生きざまから何かをつかみとっていただくために、安岡の生き方を記してある。 混迷の時代、強いリーダーが、必要な時代にこそリーダー中のリーダーであった安岡の哲学が生きてくる。そして、それは時代を超えての真理であるから、本書によって少しでも早く学んだほうがあらゆる面で「得」である。限りある人生、本書を手にしたこの「縁」を逃さずに、安岡から学びとろう。