地下室に住む中年男の告白を通じて、人間存在の矛盾と不条理に根ざした生の哲学を描く。ドストエフスキー全作品を解く鍵と評される“永遠の青春の書”をロシア文学者・亀山郁夫氏による名訳で。「この小説がドストエフスキー文学の原点です」――亀山郁夫。「地下室」とは、言い換えるなら、青春時代を生きるだれもが一度はくぐりぬけなくてはならない“戦場”である……ドストエフスキーはこの人物を通して、ある一つの真実を語りかけようとした。すなわち、この“戦場”を戦いぬくことなく、遠い将来、一個の自立した人間として大きな成熟を手にすることはできないということを。この『記録』にこめられているのは、おそらく若いドストエフスキーが身をもって経験した躓きの記憶だが、その痛々しい記憶の彼方に輝いているものこそ、人間の真実、あるいは人間の生命という聖なるオーラなのである。(「まえがきにかえて」より)